今日、札幌市中央図書館で本を借りてきた。日本の漢字使用の目安に国が定めた常用漢字や人名用漢字、表外漢字字体表などあるが、活字媒体の漢字使用は新聞社が独自の規則を作りそれに従っている。その新聞社の漢字使用基準がどんなものかを前から知りたいと思っていた。今日図書館に行ったとき面白い表題の本を見つけた。
著者の金武(かねたけ)氏は、長く読売新聞で校閲に携わり、退職後日本新聞協会用語専門委員をされている方だ。漢字のみならず外来語の表記や日本語の文法などに関する記述もあり、読んでいて幅の広さを感ずるが、やはり漢字が話題の中心だ。ちなみに、この本が書かれたのが2004年なので内容も新しい。
この本を読んで思ったのは、今もなお戦後の国語改革の大きな津波の余波が日本人の日本語表記に残っているということだ。戦前は漢字は旧字体、かな使いは歴史的仮名遣いで、今われわれが目にしたら馴染みにくいものだ。
終戦後すぐに国語改革の必要性がテーマになり、より簡単な漢字と使うことと、使う漢字の数を制限することを基本とした、当用漢字表を策定し、政策を実行した。その際、非常に短期間で複雑な漢字の簡略化まで行った。常用漢字でも、今まで使われてきた漢字の熟語が表外漢字である理由から、同音という理由だけで別の常用漢字に取り替えられる代用漢字表記が行われきた。
この本で代用漢字の成功例(定着した例)、「編輯」→「編集」があげられています。確かにこの語句は定着はしている。しかし、もともと使っていた漢字を別の漢字にそんなに簡単に代用して良かったのだろうか。
一方、時間が経過しても全く定着しなかった例も多くあげられている。「斑点」(班点)、「檀家」(壇家)、「詭弁」(奇弁)、「橋頭堡」(橋頭保)これらは後の( )内の漢字を代用漢字として1990年代始めまで新聞で使ってきたそうだが、根付かず、結局本来の字に戻し、必要に応じて仮名を付けることにしたそうだ。
今、各新聞社の裁量に任されているものに、「萎縮」(委縮)、「貫禄」(貫録)、「風光明媚」(風光明美)があるそうだ。( )の中は代用字。嬉しいことに、Windowsの日本語IMEでは漢字変換を行うと代用時ではなく「 」内の本来の字が第一候補として変換されるので、ほっとしする。
戦後、中学生や高校生でも読めるであるとか、常用漢字が国の国語施策の基本だからなるべくそれに則って、難しい漢字はやめて語句までつくっちゃおう、と行ってきたが、本当にそんなことしてよかったのだろうか?という疑問が、日本の中に沸々とわいている感じがする。
この本の第1章3に「言葉の正しさをはかる物差しはあるか」というタイトルの節がある。ここで、その何が正しいかをはかる物差しとして、岩淵悦太郎さんという国語学者の提案された3つの項目を紹介している。
1.伝統性(歴史性)・・・以前から使われてきたもの
2.一般性(広汎性)・・・伝統的に誤りでも慣用的にひろく使われるようになったもの
3.合理性(体系性)・・・国の施策の中であるルールに基づき定められたもの
(同音、同意の別の簡単な字で複雑な字を代用する)
つまり戦後、国の政策が国語の簡潔化を施策としたので、語句を勝手に作っても、それが広く使われるようになれば、それもまた正しいということになるだろう。確かに中国の簡体字もそういったものの一つだ。
ただ、私は気になるのは、もしこの考えで漢字を使っている国がそれぞれに好き勝手な漢字簡略化と、語句の代用字使用をすれば、漢字は単は「その昔、漢民族が使っていた文字」を昔輸入しただけで、今はもう、それぞれの国の文字にしか過ぎないということになるのではないか。
幕末、高杉晋作が上海に行ったとき、上海語を知らなくても筆談でコミュニケーションをとることができた、と何かで読んだことがある。つまり、アジアの共通文字としての漢字の役目を、現代人は己が国の事情だけで捨てようとしているわけだ。もったいない。
私は、何が正しいかのものさしに4番目の項目として国際性(アジア性)を挙げたい。台湾や香港、上海では今も繁体字を使っている。語句も代用字は少ないだろう。間違った簡略化や代用字は、国際性の観点から戻せばいいと思う。
今月発売予定のWindows Vistaでは旧字体漢字を含めかなりの漢字表示機能が向上する。人名では多くの人が本来の字(旧字を使った人は旧字)を用いた表記をするようになったし、今から旧字体を使う人も出てくるだろう。例えば、今のPCでも出力できるが、秋篠宮の長女眞子様も旧字だ。
語句に関しても、違和感のある戦後作られた漢字は使わないようにし、正しい本来の字を用いることができるようになる。そうして20年30年たてば、戦後のどさくさに作られたというマイナスの面が薄められ、より安定したバランス点が見つかる気がする。
むしろ今後数年間の間に、入ってくるであろう簡体字の日本の新聞での扱いに関してもっと検討しておく必要があるかもしれない。
この本は、様々な語句に関して、ハッとするようなタイムリーな解説があってとても面白い。また、続きの紹介を書きたいと思う。
最近のコメント